■絵から始める日本語教育とは |
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外国につながりのある子どもたちの学習言語を習得する厳しさがよく言われています。日本語の「話す」「聞く」「読む」「書く」の4技能を習得するための十分な教育が行われていない現在、それは当然のことと言えるでしょう。が、子どもたちにとって日本語力の問題は学習言語の習得に関わるだけでなく、思考力を育む大事な時期に、思考の停滞を招きかねない大変な問題だと思います。 子どもたちが自己肯定感をもって、豊かに育つために、子どものたちの思考力を引き出し、論理的に考える練習を重ね、更に日本語で自分の考えをまとめる練習が必要なのではないかと考えます。本を読むことに抵抗がある子どもたちも、絵をみて自分がどうしてそのように考えたのか理由を尋ねられると嬉々としてその理由を話そうとしてくれます。絵は子どもたちが考え、話をするきっかけとなるもので、その時足りない日本語の補助をする事がわたしたちの役割です。 この教室で私たちは、日本語を教えるのではなく、子どもたちから発せられる言葉を待ち、そこで子どもが日本語で上手に表現出来ない時に助け船として少し日本語を提示する裏方でありたいと思っています。 豊かな考えの種は、子どもたちのなかに既にあって、きっかけがあればその種は芽をだし、ぐんぐん成長し、そこで自ら日本語を獲得できるようになると思います。 |
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■絵から始める日本語教室の目指すもの 〜保護者の方たちに向けて〜 |
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私たちは保護者の方に、私たちが何を目指して教室活動をしているかという事を理解して頂きたいと考えてきました。学校の教科書に沿って勉強をする教室ではないからです。そして大人たちよりずっと早く日常会話が上達する子どもの様子に安心し、「うちの子は、日本語は話せるから大丈夫!!」とおっしゃる親御さんもいらっしゃるからです。 日常会話が日本語でできることと、学校の学習活動に参加をし、学力がつけられる日本語力を身につけることとは大きな違いがあります。学習活動では、子どもたちは文字を使い、日本語で読んだり書いたりしなければなりません。どんなに日常会話に不自由しないようでも、母語が日本語ではないために語彙数がまだまだ足りず、学習内容の理解が難しいのです。その不自由な日本語で子どもたちは「考えること」をしなければなりません。「考えること」「考えて発言すること」が億劫になってしまっているお子さんもいるのです。本当は力があるのに・・・・・・そんなお子さんの話をゆっくり聞いてみると、豊かな思考力があることに私たちは驚かされます。 私たちは「日本語で考えること」「自分で考えたことを話すこと」「自分の考えを文章にまとめること」を繰り返し練習する事が大切だと考えています。この繰り返しの練習によって、自分の考えをきちんと日本語で表現できるようになると思います。そして何よりこの練習が、「思考を育てること」になると考えます。 子どもたちには自らの力で思考を育て、同時に日本語を獲得しながら、根を張った大きな木のように成長してほしいと私たちは願っています。 |
■日本語教室の授業内容 |
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子どもたちそれぞれの日本語レベルによって、授業内容は変わります。初期指導では最低限の意思疎通ができる日本語の習得やひらがなの読み書きが必要でしょう。が、私たちは同時になるべく早い段階から、子ども自身が考えたことを片言でも日本語で表現する機会が必要なのではないかと考えてきました。そこで「絵から始める日本語教育」がスタートしたのですが、現在「絵・絵本の分析」「問答ゲーム」「再話」という三つの大きな項目を授業の中心に置いています。この三つの項目によって、「日本語で論理的に考える」「考えたことをわかりやすく話をする」「考えたことを論理的に文章にまとめる」という練習のサイクルを作っています。繰り返しの練習をすることで、子どもたちが自然に根拠に基づいて考え、その内容を日本語でわかりやすく表現できる力をつけてくれたらと考えています。 |
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絵・絵本の分析 |
最初は1枚の絵を観察することから始めます。絵の全体から描かれている季節や時間を考え、それから絵の細部を見ていきます。「季節はいつだと思う?」「どうしてそう思ったの?」といった問が繰り返されます。子どもが指で絵を指したり、いくつかの語彙を言ったりするだけでもその子が「考えたこと」は伝わります。 |
問答ゲーム |
「あなたな○○が好きですか?」という問いからスタートします。この質問に対して根拠に基づいて答える練習です。最終的には「答え」は文章にまとめます。問の形は少しずつ変わります。 |
再話 |
聞いた物語を、文章に再現する練習です。あらすじを書く事とは違います。これは物語を組み立てるために「接続詞」を使って、段落を論理的につないでいく練習です。1分ほどの短いお話からスタートします。 |
参考資料:言語技術教育の体系と指導内容 三森ゆりか 明治図書